大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

高松高等裁判所 昭和46年(ラ)48号 決定 1971年12月24日

抗告人

林利夫

竹村静雄

相手方

永井林蔵

主文

原決定を取消す。

松山地方裁判所執行官は、別紙目録記載の不動産に対する相手方永井林蔵の占有を解いてこれを抗告人らに引渡せ。

本件引渡命令の申立および抗告の費用は相手方の負担とする。

理由

本件抗告の趣旨および理由は、別紙一、二に記載のとおりである。

よつて判断する。

一民訴法六八七条(競売法三二条により任意競売に準用される場合も含む)に基づく競落不動産の引渡命令を発し得べき相手方の範囲については、種々の見解があるが、(1)競売開始決定により差押の効力が生じた後に第三者の取得した所有権・他物権・賃貸権の如き占有を正当ならしめる本権は競落許可決定の言渡によつてその効力を失い、かかる本権の登記は民訴法七〇〇条により職権で抹消されるのに、その占有移転のみが訴を必要とし、厳格な審理を経た確定判決に基づく執行によらなければならないとすることは、権衡を失することになるし、(2)また競落人は競落許可決定を受けた以上その所有権を取得するだけでなく執行手続により終局的にその占有をも取得し得るとすることが国家による競売を意義あらしめることになり、(3)さらには、民訴法六八七条には単に「債務者」と掲げるに止まるが、右は競落不動産の占有が一般的に債務者にあるところから通常の場合を立言したに止まり、債務者以外の者を除外する趣旨ではないと解せられること等の諸点からすると、右不動産引渡命令の相手方は必ずしも債務者およびその一般承継人に限定する必要はないと解すべきである。

しかし、不動産引渡命令を発し得る第三者の範囲については、不動産引渡命令が競売手続に付随する執行手続としてなされるところからすれば、第三者の占有が競落人に対抗し得る正権原に基づくものであるか否かの調査認定が執行裁判所によつて簡易迅速に、しかも過誤なくなされ得ることが必要であるところ、かかる観点からすれば、差押の効力が生ずる以前からの占有者については不動産引渡命令の相手方から除外するのが相当であるが、差押の効力が生じた後に占有を開始した者については債務者から占有を承継した特定承継人であると、債務者からの承継関係なしに占有を開始した非承継人であるとを問わず、ひとしく不動産引渡命令の相手方となし得ると解するのが相当である。けだし、不動産引渡命令の相手方を差押の効力発生後に占有を開始したものに限定すれば、執行裁判所は、第三者に対して不動産引渡命令を発するに当り、その第三者の占有の開始時期が競売開始決定により差押の効力が発生した後であるか否かの点のみを調査認定すれば足りるから、厳格な判決手続によらずして対抗力の有無を簡易迅速に、しかも、可及的に過誤なく調査認定し得るし、また差押の効力発生後に占有を開始した者は、その占有が債務者からの特定承継人に基づくものであると、債務者からの承継関係なしになされたものであるとを問わず、ひとしく競落人に対抗できない不法占有であつて、これを区別する合理的な理由はないからである。

二これを本件についてみるに、記録によると、債権者渡部昌一が、債務者兼所有者田口渥から設定を受けた別紙目録記載の不動産に対する抵当権に基づき松山地方裁判所に競売の申立をしたところ(同庁昭和四五年(ケ)第五五号事件)、同裁判所は昭和四五年八月四日右不動産に対する競売開始決定をし、同月六日その旨の登記がなされて(債務者に対する送達は同月一二日)差押の効力が生じたこと、抗告人らは右競売事件で右不動産を競落し、同年一一月一七日競落許可決定を受け、同年一二月一四日競落代金を完納して右不動産の所有権を取得したこと、相手方永井林蔵は右差押の効力が生じた後の同年一一月上旬頃ないし同年一二月上旬頃から競落人である本件抗告人らに対抗し得る何らの権原もなく右不動産の占有を始め、以後引続きこれを占有していること、以上の如き事実が認められ、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

三してみれば、右相手方永井林蔵は、本件競売開始決定により差押の効力が生じた後に別紙目録記載の不動産の占有を開始した不法占有者であるから、同人を相手方として右不動産の引渡命令を求める抗告人らの本件申立は理由がある。

よつて、本件申立を却下した原決定は不当であるからこれを取消して抗告人らの本件申立を認容することとし、本件引渡命令の申立および抗告の費用につき民訴法九五条八九条を適用して主文のとおり決定する。

(合田得太郎 谷本益繁 後藤勇)

別紙第一、別紙第二《省略》

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例